第2章
三日で辞めるはずだった仕事
メンズエステを選んだ理由は、特別な志があったわけではありません。
収入が必要だったから。
三人の子どもが同時に進学していきます。
「お金がないから進学できないよ」とは言いたくありませんでした。
それだけは、自分の中で決めていました。わたし自身、進学をあきらめた側だったから。
無理なら三日で辞めるつもりでした。
選んだというより、そこに向かっただけ。
迷いがなかったわけでもないけれど、立ち止まる余裕もありませんでした。
グレーな世界だと思っていたし、人に言えない仕事になるかもしれないと感じていました。
初日に会ったお客様のことは、たぶん一生忘れません。
間接照明が照らす薄明かりの部屋には、静かな音楽が流れていました。
120分が永遠に終わらない気がして、進まない時計ばかりを見ていました。
とにかく無事に終わらせなきゃ。お店に迷惑をかけないようにと、それだけを考えている時間でした。
家に帰ると一気に緊張がほどけて、疲れがまとめて落ちてくるようでした。
その夜は左腕が痛くて眠れませんでした。
身体の痛みというより覚悟の緊張だったのかもしれません。
お客様を覚える余裕も、楽しむ余裕もありません。
それが三日目には少しだけ楽しいに変わっていたのです。
理由はよくわからない。
ただ、人は慣れるし、空気にも居場所が生まれるみたい。
始めのうちはお客様にめぐまれているだけだったと思います。
この先、困るような要求に戸惑う日も来るだろうという予感もありました。
それでも続けていくうちに、少しづつ工夫が増えて
同じ時間でも、終わるころの疲れ方が変わっていく。充実感さえ感じるようになっていきました。
指名が増え、収入も増えて求められることに喜びとやりがいを覚えました。
怖さは無くならなかったけれど、仕事の形は自分の手の中に入っていき、引き出しが増えていきました。
けれど、
体や気持ちの疲れではなく、自己の欲求を解消するために来る人もいました。
しかし、その奥には孤独のようなものが見える瞬間があったのです。